本当に殺人事件だったのか。早急に再審裁判を始め、真相を解明すべきだ。
鹿児島県大崎町で1979年に、男性の遺体が発見された「大崎事件」である。
殺人罪などに問われて服役した原口アヤ子さんが、裁判のやり直しを求めた第3次請求で、鹿児島地裁が再審開始を決定した。
地裁は、共犯者らの自白の信用性は高くないとし、「殺害行為がなかった疑いが否定できない」と事件の存在自体にまで疑問を投げ掛けた。
当初から犯行を否認してきた原口さんは90歳になる。残された時間は少ない。
鹿児島地検が福岡高裁宮崎支部に即時抗告したのは残念だ。高裁支部は迅速に審理を進め、再審開始を認めてもらいたい。
事件は、原口さんの義弟(元夫の弟)の遺体が自宅脇の牛小屋で見つかったことから始まる。
確定判決は、義弟の日頃の生活態度に不満を募らせた原口さんが、元夫や親族2人と共謀し、義弟宅で首をタオルで絞めて殺害、牛小屋に遺棄したとした。
これに対して原口さんの弁護団は、当日の状況から、義弟が自転車ごと溝に転落したことで死亡した可能性が高いと主張した。
凶器のタオルが特定されないなど、事件は客観的な証拠に乏しく、有罪の支えは元夫や親族らの自白だけだった。
再審開始決定の決め手となったのは、弁護団が提出した心理学者の鑑定書である。共犯者の自白の不合理な変遷から「体験に基づかない供述だ」と指摘したもので、地裁はこれを全面的に採用した。
「捜査機関の誘導や迎合によって変遷した疑いがある」とした地裁の認定は重い。
自らの見立てに沿って自白を迫る手法は、これまで何度も見られた冤罪(えんざい)と同じ構図だ。捜査機関は、改めて自白偏重を厳しく戒めなければならない。
もう一つの決め手が、遺体の解剖写真から窒息死の所見が見られないとした法医学者の鑑定書である。
この解剖写真と、心理学者が鑑定した共犯者の供述は、いずれも再審請求審で地検が新たに開示した250点以上の証拠にあったものだ。
中には捜査機関が当初、見当たらないと開示を渋っていた証拠もあるという。
自白の偏重と並んで、検察側の恣意(しい)的な証拠開示が冤罪を生む要因となってきたことも見過ごせない。
今回、地裁が弁護団の求めに応じ、開示するよう地検に勧告したのは評価できる。しかし、裁判所頼みでいいはずがあるまい。
証拠の開示を巡っては、昨年の刑事訴訟法改正で検察官が被告側に証拠の一覧表を交付する制度が新設されたが、これでは不十分である。
証拠隠しによる冤罪を防ぐためにも、再審請求審を含めて、全証拠の一括開示を原則とする制度を作るべきだ。
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