犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が施行された。

 法の成立を急ぎ、「数の力」で国会審議を閉じた安倍政権と与党の強引な姿勢は、都議選での自民党惨敗の一因になった。罪のない市民の自由や権利が不当に侵されることはないのか。不安は拭えず膨らむばかりだ。

 施行された以上、警察の法運用や捜査の在り方が問われることになる。

 実行に至らない計画段階まで捜査権限が前倒しされたことで、どんな変化が起きるのか。権力監視を強めていかなければならない。

 なぜ共謀罪が必要なのか、いまだに合点がいかない。

 安倍晋三首相は「東京五輪を控え、テロ対策は喫緊の課題だ。国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結はテロを防ぐ上で重要だ」と述べた。条約締結は共謀罪新設が必要条件であり、東京五輪をテロから守るために不可分だと主張している。

 欧州などで頻発する自爆テロや銃乱射事件の悲惨な光景に接すれば、東京五輪をテロの現場にしてはいけないという思いが募る。

 計画段階での摘発でテロの企てを未然防止し、多くの人命を救えるなら、これに勝ることはない。

 しかし、2000年に国連で採択されたTOC条約は、テロではなくマフィア対策を念頭にしたものだ。

 条約が「重大犯罪の合意(共謀)」などの犯罪化を義務づけていることを根拠に、政府は03年から05年まで3度、共謀罪新設を盛り込んだ組織犯罪処罰法の改正案を国会に提出した。

 市民団体や労働組合も処罰対象になるのではという懸念が強く、いずれも廃案となっている。

 法案の骨格を変えず、「共謀罪」を「テロ等準備罪」と看板を付け替え、適用対象を「組織的犯罪集団」としても、単独犯が主流となった自爆テロや銃乱射事件の未然防止に有効なのかどうか。暴力団犯罪や薬物密売事件しか、具体的な捜査や摘発のイメージが浮かばない。

 懸念されるのは、テロ防止の効果が望めないのに、その対策としての捜査が市民生活を息苦しいものにしないかという点である。

 「組織的犯罪集団」のメンバーが2人以上で犯罪実行を計画しているとして、警察はどうやってその端緒をつかむのだろう。計画を裏付けるために必要な、下見などの「準備行為」をどんな方法で見つけるのか。

 金田勝年法相は、共謀罪捜査を通信傍受の適用対象に加えることはないと言明している。だが、警察の内偵捜査で何が行われているか、知るすべはない。

 SNS(会員制交流サイト)での戯れのやりとりすら、「計画」の端緒と捉えられる恐れはある。抑制的な運用を求める。