歴史的な条約を「核なき世界」への一歩にしなければならない。
核兵器を非合法化する「核兵器禁止条約」が国連で採択された。50カ国が批准した後、90日後に発効する。
条約には米国など核保有国が参加しておらず、実効性に疑問が持たれている。
だが、賛成は国連加盟国の3分の2に迫る122カ国に上った。核兵器に違法の烙印(らくいん)を押す国際的な規範が、これほどの多数で採択された意義は大きい。
保有国は、核廃絶を求める人々の声に耳を傾け、核軍縮を前に進めるべきである。
条約は、核兵器の開発や実験、製造、保有、移譲などを禁止した。さらに制定交渉の過程で、「核抑止力」を意味する核兵器を使用するとの威嚇も禁止項目に加えた。
特筆されるのは、「被爆者(ヒバクシャ)の受け入れ難い苦しみに留意する」と前文で明記したことだ。
広島、長崎の原爆投下から72年。被爆者らは核兵器の非人道性を訴え続けてきた。それが条約採択の原動力になったのは間違いない。
国連で演説したカナダ在住の被爆者のサーロー節子さんは、採択を「核兵器の終わりの始まりだ」と喜んだ。
その言葉通りになるかどうか。鍵を握るのが米英仏中ロの核保有五大国である。
いずれも、禁止条約は非現実的だと批判し、段階的に核兵器を減らしていくという立場を取る。
しかし、世界の核弾頭の9割以上を持つ米ロの交渉は、2011年に発効した新戦略兵器削減条約(新START)以降、停滞している。ジュネーブ軍縮会議での多国間交渉も結果が出ていない。
五大国は、核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められる代わりに、誠実に核軍縮を進める義務がある。にもかかわらず、進展がないばかりか、インドやパキスタンなどに核保有を許してしまった。
非保有国が禁止条約に突き進んだ背景には、そんな現状への憤りと危機感がある。条約がうたった「核軍縮は倫理的責務」との言葉を、保有国は真剣に受け止めるべきだ。
核兵器の非合法化は、開発をやめない北朝鮮の違法性を浮き彫りにすることにもなる。愚かな国の暴走を止めるのは核による威嚇ではなく、国際社会の一致した厳しい行動である。核の脅威をこれ以上、拡散させてはならない。
残念なのは、日本が制定交渉に加わらなかったことだ。米国の「核の傘」に頼っているためで、オランダを除く北大西洋条約機構(NATO)諸国も参加しなかった。
日本は唯一の戦争被爆国であり、核保有国と非保有国の「橋渡し役」になると自任してきた。条約に背を向けることは許されない。
被爆地から核兵器廃絶の訴えを発信してきた国として、早期に批准し、保有国に核軍縮を迫る。それこそが日本が担う役割である。