広告大手電通の違法残業事件で、東京簡裁が、労働基準法違反罪で略式起訴された電通への略式命令を「不相当」として正式裁判を開くことを決めた。

 新入社員高橋まつりさんの過労自殺は、社会に大きな衝撃を与えた。政府の働き方改革の議論にも影響した事件である。

 裁判所は、略式手続きにそぐわない複雑な事件だと判断したもようだ。正式な裁判で、企業風土や倫理意識などの問題点を明らかにしてもらいたい。

 東京区検は5日に電通を略式起訴していた。起訴状では、電通は、高橋さんら社員4人に対し、電通本社と組合の労使協定(三六協定)の定めを超えた時間外労働をさせたとしている。

 検察は、高橋さんの当時の上司ら本社幹部3人と、3支社の幹部3人は悪質性が高くないと判断し、起訴猶予とした。

 本社幹部が起訴猶予となったことに、まつりさんの母幸美さんは「刑事処分が妥当と考えていたので納得できない」とのコメントを出している。

 電通が略式命令で罰金を納めたとしても理解は得られまい。

 正式裁判では、経営幹部が東京簡裁に出廷し、公開で審理される。事件の教訓を生かすためにも、その意味は大きい。

 違法残業を従業員に強いた結果、労働基準法違反罪に問われる企業が後を絶たない。

 2016年度の過労自殺(未遂含む)は84件で、過労死は107件に上る。

 公開裁判が、違法残業を常態化させてきた企業への抑止力になる効果にも期待する。