天皇陛下が退位の思いをにじませたビデオメッセージを公表されて、8日で1年となった。
率直なお気持ちの表明が広く共感を呼び、政府、国会は退位を可能にする特例法を6月に成立させた。政府は年内にも退位と即位、改元の日程を明らかにするという。
皇室の事情を十分に勘案しながら、国民の暮らしに配慮した代替わりを実現しなければならない。細心の準備が必要だ。
昭和天皇が亡くなったのは1989年1月7日だった。わずか7日で昭和64年は終わった。間髪を置かず新年号が公布され、翌8日から平成元年となった。
111日間の闘病中、誰が命じるでもなく、お祭りやコンサートなどの開催を自粛する動きが列島に広がった。7日に予定されていた高校ラグビー決勝戦も中止になるなど皇室ありきの世情となった。
「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます」
陛下はメッセージの中でこう語った。昭和から平成への代替わりで起きた、苦い現実を念頭にしたものである。
来たるべき退位と即位、改元は、陛下の訴えが実ったことで、政府、皇室、国民それぞれの事情を勘案した日程調整が可能となった。
特例法では「退位の日」について「公布日から3年を超えない範囲で、皇室会議の意見を聴いた上で政令により定める」としている。陛下の退位とともに、皇太子さまが即位する。
政府は、2018年12月末に退位・即位の儀式を行い、19年1月1日を期して改元する案を検討しているという。
しかし、皇室の年始は元日の「新年祝賀の儀」や、翌2日の一般参賀など重要儀式が続く。天皇の祭祀(さいし)「四方拝(しほうはい)」もある。
憲法上の「国事行為」に当たるもの、日本人の暮らしに根づいたもの、いずれも「象徴の務め」と位置づけられている。
年末はその準備のため、職員のほか、調理や配膳を担当する人々が全国から動員される。皇室のお正月は、最も繁忙な時期だ。
代替わりに伴う重要な儀式をこれに重ねれば、皇室の方々や宮内庁の負担は大きくなるばかりである。
このため、ここに来て退位を19年3月末とし、4月1日に改元する「年度替わり」案が宮内庁から出てきたという。果たして1月1日改元案は、皇室側の事情を考慮した上での案だったのか。
皇室の伝統について今、最も詳しいのは、天皇、皇后両陛下である。どんな職員もかなわない。そして、国民への影響について最も気に掛けているのもお二人だ。
所管する内閣官房は、両陛下の考えにも耳を傾けるべきである。
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