米国のトランプ大統領の人種差別に対する認識が、強い批判を呼んでいる。
南部バージニア州で起きた白人至上主義の団体と反対派が衝突した事件への対応を巡って、トランプ氏が白人至上主義者を擁護するかのような発言をしたからだ。
到底看過することはできない。与党の共和党内でも批判の声が上がっているほか、同盟国の首脳も懐疑的な見方を示している。
産業界でも反発が拡大している。トランプ氏の発言を受けて、大企業の経営者らで構成する二つの助言組織では辞任するメンバーが続出。組織は解散に追い込まれた。
政治にも影響力を持つ経営者らが一斉に距離を置いたことで、トランプ政権の不透明感が深まっている。憂慮すべき事態だ。
にもかかわらず、トランプ氏はツイッターで、奴隷制の存続を訴えた南軍関連の記念碑や銅像を撤去する動きが全米で加速していることについて「愚かだ!」と投稿した。
大統領選で勝利する原動力になったのは、白人労働者である。2020年の次期大統領選などを見据え、支持層を引き留めたいという思惑もあったとみられる。
しかし、奴隷制を容認したとも受け取られかねない発言は、あまりに軽率だと言わざるを得ない。
事件後間もなく、オバマ前大統領が南アフリカの故マンデラ元大統領の自伝を引用して「肌の色や出自、信仰を理由に生まれながらに他人を憎む人はいない」とツイッターに投稿し、共感の輪が広がっている。それこそが多くの米国民の思いではないか。
こうした中で、トランプ氏は人種差別的思想「オルト・ライト」の代表格とされる右派サイトを率いた最側近のバノン首席戦略官兼上級顧問の解任に踏み切った。
バノン氏といえば、イスラム圏からの入国規制を主導したほか、メキシコ国境への壁建設を目指すなど、「陰の大統領」とされるほどの影響力があった人物だ。
バノン氏の過激な言動に共鳴したトランプ氏は、報道批判や人種差別的発言で、たびたび物議を醸してきた。
解任によって事態の沈静化を図ろうという思いもあったのだろう。しかし、トランプ氏の人種問題への姿勢を問う動きは強まっている。
大規模な抗議デモが起きているだけではない。バノン氏が政権中枢から去ったことで、支持基盤である保守強硬派も反発している。側近の更迭が続く政権内の混乱に拍車がかかる恐れもある。
さらに、人種間の対立や社会の分断が進むようなことになれば、国際社会からの信頼が揺らぎかねない。そんな状況で、山積している喫緊の課題に対して、うまく対処できるのか。
トランプ氏に求められるのは国民の融和に力を尽くすことである。不用意な発言は厳に慎むべきだ。