防災用として見直し
ぐっと力を入れ、持ち手を何度か上下に動かすと勢いよく水が出る。手を差し出した子どもたちが歓声をあげた。「珍しいとは思うけど、ずっとあるから特別な感じはしない」と近所に住む生田旭くん(11)。
つくだ煮発祥の地と言われる東京都中央区佃。江戸時代に漁師たちが利用したとされ、昭和に入ってポンプ式に替わった井戸が路地裏や軒先にある。近隣に高層マンションが立ち並ぶが、一帯は再開発を免れ、空襲を生き延びた木造住宅や井戸が残った。
終戦直後は飲み水に利用されたこともあるが「今は植木にやったり、顔を洗ったりかな」と井戸のひとつを管理する折本正通さん(83)。しかし、火災や相次ぐ震災を目の当たりにして、防災用としてもあらためて見直されてきた。
銀座から地下鉄で二駅。銭湯や駄菓子屋が点在し、ザリガニ捕りができる公園もある昭和な空間は、観光資源としても貴重だ。先人が守り抜いてきた井戸は、いくつもの恩恵を佃の町にもたらしている。(写真と文・池田まみ=東京新聞)