急速に進む少子高齢化と人口減少は、待ったなしの厳しい現実である。
 
 有権者は今、暮らしの行く末に強い危機感を抱いている。子や孫につけを回さない社会保障と財政の仕組みをどう築き上げるのか。何の痛みも伴わない改革や、財源の裏付けがない公約は、無責任な口約束にすぎない。
 
 各党は、自らの公約を実現、持続させる手だてを具体的に示すべきだ。
 
 この10年、政局を大きく揺り動かしてきたのは、医療、介護、年金など社会保障に関わる出来事だった。
 
 2006年に生まれた第1次安倍政権は、5千万件に及ぶ年金記録が誰の物か分からなくなった「宙に浮いた年金記録問題」で窮地に追い込まれ、1年の短命で終わった。
 
 09年、「国民の生活が第一」をスローガンに政権交代を果たした民主党は、「子ども手当」などの目玉公約を財源難から実現できず、有権者の信頼を失った。12年12月の衆院選で惨敗、安倍政権の復活を許した。
 
 年に1兆円以上も膨らんでいた社会保障予算が、容赦なく国の財政を圧迫していく。「社会保障と税の一体改革」を打ち出し、社会保障目的の消費税増税を自民、公明と3党合意したのは一定の功績と言えるが、そもそも公約になかった増税は、国民の目に約束違反と映った。
 
 政権さえ取れればと焦り、財源確保の見通しが甘かったことが、党勢に再起困難な大打撃を与える結末となった。
 
 首相は、自らと民主党政権の挫折から、年金などの社会保障政策や消費税増税が政権に与える影響に敏感だ。
 
 過去の選挙では、3党合意である消費税増税の延期などを争点とし、有権者の支持を得た。
 
 今回の選挙では、「国難突破」の目玉公約として、19年10月まで再延期した消費税増税について、増税分2%の使途変更を打ち出した。
 
 増税分は約5・8兆円に当たる。このうち4兆円は国の借金を減らす財政健全化に使うことが決まっていた。その一部を教育無償化や子育て支援の財源に充て、「全世代型」にするという。
 
 少子化や子育て世代への配慮を印象づけるが、財政健全化の後回しは、次世代へのつけ回しだとの批判は強い。
 
 民進党の前原誠司代表も直近の党首選で同様の政策を展開していたが、「名を捨て実を取る」合流で、なかったことにするのだろうか。
 
 公示に向け、「希望の党」や立憲民主党は公約策定を急ぐ。消費税増税凍結を主張するなら財源はどうするのか。給付削減か、無駄の排除をうたうのか。実現・持続可能性を冷静にチェックしなければならない。
 
 勝利第一、票欲しさの公約は、国の財政を圧迫する結果を生んできた。その悪循環を断つべきだ。