東芝が、経営再建の鍵を握る半導体子会社「東芝メモリ」を、「日米韓連合」に売却する契約を締結した。
迷走を続けた売却先選びが決着し、東芝は再建に向けて一歩前進したと言えよう。
ただ、協業する米ウエスタン・デジタル(WD)が影響力を持つ「日米連合」ではなく、日米韓連合を選んだことが吉と出るか凶と出るかは東芝の努力次第である。
日米韓連合は、米ファンドのベインキャピタルなどで構成されている。東芝は、ベインなどが設立した買収目的会社に対し、東芝メモリの全株式を2兆円で売却する。
7400億円の財務改善効果があるため、来年3月末までに売却を完了すれば、債務超過が解消され、東芝は上場を維持できる。
そのためには、幾つかのハードルを越える必要がある。
まず、売却中止を求めて訴訟を起こしたWDとの係争を解消することだ。国際仲裁裁判所の判断次第では、売却差し止めの可能性がある。
関係各国の独禁法審査を来年3月末までに通過させることも、大切な条件の一つだ。手続きには半年程度かかるとされるが、中国では国内の半導体保護のために、審査が長期化する懸念も拭えない。
微妙な情勢でも、期限に間に合わせなければならない。
臨時株主総会では、東芝メモリ株を日米韓連合に売却する議案や、綱川智社長ら経営陣の再任議案を可決した。
経営陣は今度こそ一致結束して、株主や取引先の期待に応えてほしい。
1875年に創業された東芝は、冷蔵庫や洗濯機など国産第1号の家電製品を世に送り出してきた。日本のものづくりを象徴する企業である。
ところが、不正会計問題が発覚した後、東芝伝統の白物家電事業は中国企業の傘下となり、医療機器事業も手放さざるを得なくなった。
半導体事業は最後に残った”虎の子“とも言える東芝の貴重な収益の柱である。
東芝は東芝メモリの買収目的会社に再出資し、光学機器大手HOYAと共に議決権の過半を保有する。日本勢で経営権を掌握するのは技術流出を防ぐ観点から重要だ。
産業革新機構と日本政策投資銀行の政府系2社も、WDとの訴訟が解決した後で、出資する運びとなっている。
東芝に関しては、経済産業省を中心に官民を挙げて支援したとの感が強い。何としても経営再建を軌道に乗せたいとの決意が伝わってくる。
だが、債務超過を解消しても、厳しい経営環境に変わりはない。事業を切り売りして損失を補てんするのでは、先細りは避けられないからだ。
東芝の社員は将来への不安を募らせており、人材の流出も深刻である。収益の柱になる事業を創出しなければ、展望は開けないのではないか。
東芝は株式売却が遅れた場合の代替策も検討しているようだが、あらゆる手を尽くしてもらいたい。