「完全に潔白だ」と驚喜するのは、トランプ大統領も、いささか気が早くないか。

 バー司法長官は、ロシア疑惑の捜査報告書の概要を議会に示し、米大統領選でのトランプ陣営とロシアとの共謀について、「証拠は見つからなかった」とした。

 発足以来、政権の最大の懸念だった疑惑に、「シロ」のお墨付きが出たわけである。弾劾訴追も、と追及してきた野党民主党の勢いをそぐことは確かだ。来年の大統領選で再選を狙うトランプ氏への追い風ともなろう。

 ただ、報告書は、トランプ氏による疑惑捜査への司法妨害の疑いは晴れていないとしている。火種はくすぶり続けており、下院で優位に立つ民主党と政権との対立は、にわかに収まりそうにない。

 2016年大統領選で、トランプ陣営が、対立候補だった民主党のクリントン氏に打撃を与えようと、ロシア政府と共謀した|。これがロシア疑惑である。

 選挙中、クリントン陣営はサイバー攻撃を受け、大量のメールが流出。内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した。

 米情報機関は17年1月、サイバー攻撃について「ロシアに融和的なトランプ候補の勝利を狙い、プーチン大統領が指示した」と断定。同年5月に任命されたモラー特別検察官は、2年に及ぶ捜査で、トランプ氏の元側近やロシア情報部員ら34人を訴追した。

 トランプ氏は大統領就任後、連邦捜査局(FBI)長官を解任しており、捜査への司法妨害の疑いも取りざたされている。

 司法妨害を巡って報告書は「大統領が罪を犯したと結論付けていないが、潔白としたわけでもない」と指摘している。疑惑の「本丸」だった共謀の事実は認定されなかったにせよ、「共謀なし、司法妨害なし。完全に疑いが晴れた」と、浮かれている状況ではあるまい。

 モラー特別検察官の報告書は300ページ以上あるとされるが、バー司法長官の示した概要の書簡は、わずか4ページにすぎない。

 司法妨害について証拠不十分としたバー司法長官の中立性には疑問が持たれており、民主党が報告書の全面公開を求めるのも当然だろう。

 トランプ氏自身、「私が迷惑を被ることはない」と自信を示している。米国政治を遅滞させてきた疑惑を拭い去るためにも、早期に全文を公開すべきだ。

 政権の重しともなってきたロシア疑惑に結論が出たことで、トランプ氏はさらに強硬姿勢に出るとみられる。米国第一主義の下、支持者受けの良いメキシコ国境の壁建設など、国論を二分してきた政策の実現に向け、突き進むことになりそうである。

 次期大統領選をにらんだ動きも本格化している。社会の分断はいっそう深まるだろう。超大国の不安定化がさらに加速する可能性がある。