政府系金融機関の商工中金が、国の危機対応融資を巡って組織的な不正を行っていたことには、驚かされた。
商工中金は、経済産業省からの2度目の業務改善命令を重く受け止めるべきだ。
世耕弘成経産相は「解体的な出直しが不可欠」と述べたが、掛け声倒れに終わらないようにしてもらいたい。
安達健祐社長は元経産次官だ。身内に甘い対応は許されない。人事、組織の刷新はもちろん、第三者による厳正な改善策を求める。
危機対応融資は、金融危機や大災害が発生し、一般の金融機関による融資が困難と想定される場合に、経営が悪化した企業の資金繰りを支援する制度である。
2008年のリーマン・ショックを機に導入され、東日本大震災や熊本地震などが対象となった。中小企業のセーフティーネットとしての役割は小さくない。
融資先が破綻した際の補償や利子補給は一部税金で賄われており、国民の理解なくしては成り立たない制度でもある。それが不正の温床になったことは看過できない。
社内調査では、融資先の財務データを改ざんし、経営が悪化したように見せかけて融資するケースが多かった。不正は全100店中97店で行われ、4609件の融資実行額は計2646億円に上る。
なぜ、こんな大掛かりな不正が続いてきたのか。透けて見えるのは、完全民営化を回避する狙いである。
商工中金は小泉政権下で完全民営化が決まり、08年に株式会社化された経緯がある。
ところが、危機対応融資が始まったことから、金融危機や災害で経営危機に陥った企業の救済を理由に、完全民営化が先送りされてきた。
貸出残高の3割程度に上る基幹業務の危機対応融資は、商工中金が政府系金融機関として存続するために欠かせない重要な業務だろう。
政府は商工中金株の約46%を保有している。完全民営化論議の再燃は必至だ。
危機対応融資など四つの公的融資業務の縮小も検討され始めている。段階的に公的融資を絞り、通常貸し出しに切り替えるという。
商工中金には、地方銀行を中心に民業補完の立場を逸脱しているとの批判が根強い。
一方で、リーマン・ショックの際には、民間金融機関による貸し渋りや貸しはがしが横行し、健全な中小企業まで倒産の可能性が懸念された。
そこで、民間では難しい融資業務を補うために活用されたのが危機対応融資であり、一概には否定できない。
業務改善命令は、民業を圧迫しない形での持続可能なビジネスモデルの策定なども求めている。
完全民営化の是非を論じるのと並行して、民間金融機関とのすみ分けができる組織づくりを急ぐことが大事だ。
結果的に、経営基盤の弱い中小企業にしわ寄せがいくことがあってはならない。