安倍晋三首相が衆院選後、初の所信表明演説を行った。
首相は核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応や、深刻化する少子高齢化の克服に強い意欲を示した。
だが、いずれも具体性に乏しく、解決に向けた道筋が明確に描かれたとはいえない。
国民から厳しい視線が注がれる学校法人「加計(かけ)学園」と「森友学園」の問題に関する言及は避けた。「謙虚な姿勢」「丁寧な説明」と繰り返してきた首相の言葉の重みが問われよう。
北朝鮮に対しては、国際社会と共に圧力を強めるとした上で、ミサイル防衛体制など防衛力の向上を打ち出した。
脅威に対処するのは当然だが、なし崩し的な防衛力増強には懸念が拭えない。圧力と同時に、外交的な解決を探る努力が何より求められる。
少子高齢化への対応では、企業の競争力を高める「生産性革命」と、教育無償化を柱とした「人づくり革命」を断行すると表明した。
安倍政権は、これまでも「地方創生」や「1億総活躍社会の実現」など看板政策を掲げてきたが、目に見えるような成果は上がっていない。
首相は生産性、人づくりとも、来月に政策パッケージを策定する方針だ。看板を増やすだけに終わらないよう、実効性を伴った施策を盛り込まなければならない。
加計学園を巡っては、愛媛県今治市での獣医学部新設計画が14日に認可された。
しかし、15日の衆院文部科学委員会で政府側は、「既存の大学では対応困難」などとする新設の4条件を満たすと判断した根拠を、十分に示せなかった。文科省の大学設置・学校法人審議会も、計画の不備を指摘していた。
なのになぜ、国家戦略特区に認定されたのか。首相周辺の関与や忖(そん)度(たく)はなかったのか。疑念は晴れるどころか、深まっている。
森友学園の問題でも、国有地売却の値引き額が最大6億円も過大だったと、会計検査院が試算していることが判明した。事実なら、行政がゆがめられたことになる。
野党は衆院予算委員会などでただす構えだが、自民党は与野党の質問時間の割合を「2対8」から「5対5」に見直す案を出している。
追及から逃れたい意図は明白で、15日の文科委のように、政府の言い分を擁護する質問が増えれば、国会審議が形骸化しかねない。首相は自民党総裁として、現行通りとするよう指示すべきだ。
所信表明の最後に、首相は憲法改正に向けた議論を前に進める意欲を強調した。
衆院選では、自民、公明の与党で改憲発議に必要な3分の2以上を維持し、希望の党などを含めると改憲勢力は8割に上る。
とはいえ、改正項目については、自民党内や各党間で溝がある。改憲自体を目的にしてはならない。変える必要があるのかを含めて、議論を深めることが大切だ。
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