生涯のうち2人に1人ががんにかかるとされ、働くがん患者も増えている。治療をしながら仕事を続けることはできるだろうか。
 
 企業に対し、がん患者の雇用継続に配慮する努力義務を課した「改正がん対策基本法」の成立から1年になる。だが、両立を後押しする企業側の動きは鈍い。対策を急がなければならない。
 
 国立がん研究センターの推計によると、2006年にがんと診断された働く世代(20~64歳)は21万6000人だったが、13年は25万人に増えた。背景には、医療の進歩などで5年生存率が60%を超え、60歳以上の就労が増加したことがある。今後も働くがん患者は増えるだろう。
 
 厚生労働省は、両立支援に関する企業向けガイドライン(指針)で、通院や負担軽減に利用できる「短時間勤務」や「在宅勤務」などを推奨している。
 
 がんは進行度合いや部位で個人差があり、必ずしも長期療養が必要なわけではない。これらの制度は、放射線治療など定期的な通院が必要な場合や、体調不安を抱える人に有用だ。
 
 ところが、主要108社を対象にした共同通信のアンケートでは、短時間勤務導入は28・6%、在宅勤務は30・8%にとどまった。働きたくても職場環境が整っていない現状を浮き彫りにした形だ。
 
 周囲の理解を得られず、離職する患者も多い。静岡県立静岡がんセンターによる13年の実態調査では、がんと診断された後、依願退職または解雇された人の割合は3割以上に達した。がんと診断されたのを言い出しにくかったり、仕事を頼みにくかったりしているのが実情だ。
 
 がんへの理解が深まっているとは言い難い。制度の導入と併せ、研修や意識啓発などで両立支援の土壌を整えることが大切である。
 
 そんな中で、先進的に取り組む企業も出始めている。例えば、大和証券グループ本社は、「がん就労支援プラン」をスタートさせ、短時間勤務と時間外労働の制限・免除、後遺症や副作用で一度に食事が取れない場合などに毎日1時間使える「治療サポート時間」を導入した。
 
 患者一人一人と向き合い、柔軟な勤務体制の運用が求められる。国も助成金などの支援や、企業側と主治医らとの調整役である「両立支援コーディネーター」の育成に力を注ぐことが重要だ。
 
 徳島労働局は8月、経営者団体や労働組合、医師会などと、両立支援の在り方を考えるチームを設置した。手探り状態の企業が多い中、モデルとなる仕組みをつくってもらいたい。
 
 改正法の目標は、「がん患者が尊厳を保持しつつ安心して暮らすことのできる社会の構築」である。がんと診断された後の生活を安定させ、自分らしく働き続けるために、あらゆる支援策を講じていかなければならない。