前例がないことを理由に、挑戦を頭から否定するつもりはない。ただ、徳島県が2018年2月、東京で開業する情報発信・交流拠点「ターンテーブル」は、多額の税金をつぎ込む事業にしては、その仕組みに関する議論が不十分だと言わざるを得ない。

 全国初の泊まれるアンテナショップ―。これがターンテーブルの売り文句の一つだ。カフェ、レストラン、マルシェ(市場)、宿泊の機能を併せ持つ施設として、県が5階建てビルの改修を進めている。徳島の1次産品や伝統文化などの価値を発信し、ブランド力を高めるのが目的だ。

 渋谷駅から徒歩で10分余りかかり、さほど良いとは思えない立地への不安も指摘されている。さらに問題なのは、この施設が開業後、徳島にどれほどの恩恵をもたらすのかを検証する仕組みが整っていないことだ。

 ターンテーブルが全国的に珍しいとされるのは、宿泊できるアンテナショップという点だけではない。

 民間ビルを県が賃借して改修し、ターンテーブルの運営業者にビルを転貸する方式もそうである。

 県による施設整備費は約2億3千万円。開業後、県はビル所有会社に毎年、賃料5千万円を支払う。運営業者は黒字、赤字にかかわらず、県に毎年2千万円を納入する。差し引きした3千万円が県の毎年の負担となる。県はこの3千万円を、情報発信とブランド力強化にかかる経費と位置付けている。

 県の業務を代行する色合いが濃い管理委託や指定管理という制度ではなく、貸し付けによる運営は借りた業者側の自由度が増す。赤字も業者が背負うが、もうけも業者の懐に入る。そのことが業者の積極的な営業努力を促し、県が狙う目的の達成につながる。県はそう踏んだ。

 県が施設整備費や賃料に多額の税金を投入し、民間業者に貸し付けるという方式は、公共事業ではあまりないやり方といえる。民間の事業を県が手助けしているかのようにも見て取れ、これまで予算を認めてきた県議会にも、首をかしげる議員が少なくない。

 それだけに、事業の検証がより重要になる。県産品の東京での認知度向上や消費拡大は図られたのか、県産品メニューを出す都内の飲食店は増えたのか、施設訪問者が徳島を訪れるきっかけになったのか、徳島のファンは増えたのか。これらは欠かすことのできない検証項目である。

 徳島が誇る1次産品などの魅力を知ってもらうために、東京に打って出る。それに異論はない。とくしまブランド推進機構(地域商社阿波ふうど)と連携し、成果を追求してほしい。

 しかし、税金の使い方として妥当かどうかを見極めるためにも、検証できる仕組みを速やかにつくるべきである。この課題をクリアできなければ、県民からの幅広い支持は得られまい。