将棋界で史上初の「永世七冠」を達成した羽生善治さんと、囲碁で初めて2度の七冠制覇を果たした井山裕太さんに、国民栄誉賞が贈られる見通しとなった。将棋、囲碁界では初めての受賞となる。

 前人未到の快挙で勇気と感動を与えてくれた2人に、ふさわしい栄誉である。

 羽生さんは竜王戦7番勝負の第5局に勝ち、竜王を獲得した。これで、永世規定がある七つのタイトル(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)全てで称号を手にしたのである。

 徳島新聞社主催の王位戦の徳島対局でたびたび来県し、数々の名局を残している。ファンを沸かせた熱戦は県民になじみが深い。

 中学生でプロ入りした羽生さんは快進撃を続け、1996年には史上初めて七冠を独占し、注目を集めた。

 2008年に史上初の永世六冠になったが、永世七冠への挑戦は、一回り若い渡辺明さんに阻まれてきた。47歳になって渡辺さんを破り、悲願を達成した羽生さんの飽くなき精進をたたえたい。

 羽生さんは群を抜く強さに加え、終盤で敗勢になっても”羽生マジック“と呼ばれる独創的な指し回しで逆転勝ちを収め、プロ棋士をもうならせてきた。女性や子どもたちの人気も高く、将棋の技術の進歩は言うに及ばず、普及面での貢献も計り知れない。

 タイトル獲得数は通算99期で歴代1位だ。台頭する若手の目標として、さらに記録を更新してほしい。

 井山さんは10月に名人戦7番勝負の第5局を制し、名人位を奪還。七タイトル(棋聖、名人、本因坊、王座、天元、碁聖、十段)を独占する七冠に復帰した。2度の七冠は囲碁、将棋界を通じても初の偉業である。

 12歳でプロ入りし、2009年には史上最年少の20歳で名人を獲得するなど、第一人者の地位を固めてきた。まだ20代の若さで、日本はもちろん、中国など世界の強豪との戦いぶりにも期待したい。

 国民栄誉賞について、羽生さんは「検討していただけるだけでも名誉なこと」と語った。井山さんは「ただただ驚き、身に余る光栄だと恐縮しています」とコメントした。

 将棋界、囲碁界に共通するのは、人間より強くなった人工知能とどう向き合うのかという重い課題だ。

 人工知能に追い越されれば、プロの将棋、囲碁の興趣がそがれるとの懸念もあったが、そうでもないようだ。

 現に、将棋の佐藤天彦名人が人工知能に敗れた後も、最年少プロ棋士藤井聡太四段の活躍により、国民の関心はむしろ高まった。子どもの間では将棋ブームが起きている。 井山さんも人工知能に敗れた経験を持っている。だが、人工知能の思考を吸収して人間も進歩する。そうすることで人知が将棋、囲碁の未来を切り開く可能性はある。

 その意味でも羽生さんと井山さんの役割は大きい。