「安倍1強」政治のひずみが見えた年だった。安倍晋三首相は10月の衆院選で大勝したが、数々の問題は残ったままである。
官邸の意向を先回りして推し量る「忖度(そんたく)」は、学校法人・森友学園の国有地売却と、加計(かけ)学園の獣医学部新設に絡む問題として表面化した。
森友には約8億円も値引きし、加計の問題では、「総理のご意向」などと書かれた文書の存在が明らかになった。
首相側近や官僚の関与の有無が国会で追及されたが、首相らは否定。しかし、納得のいく説明は尽くされておらず、疑惑は晴れていない。
首相は「謙虚な政治」を強調しているが、その姿勢を国民が注視していることを忘れてはならない。
国論を二分する法律を強引に成立させる手法にも、「1強」のおごりが見えた。
6月に成立した「共謀罪」法では、委員会採決を省略する「中間報告」という奇手まで使った。国会の議論を軽視し、民主主義を否定する暴挙だったと言える。批判が強まったのは当然だ。
「1強」の緩みは、閣僚の度重なる失言などに表れた。4月には、今村雅弘復興相が東日本大震災を巡る不適切な発言で辞任した。7月には、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題を巡って稲田朋美防衛相が辞任に追い込まれている。
首相の任命責任が問われ、7月の東京都議選で自民党は歴史的な惨敗を喫した。国民を甘く見た代償は大きく、内閣支持率は急落。安倍政権を揺るがした。
看過できない事態は経済でも起きた。基幹産業の「ものづくり」の製造現場で相次いだ不正である。
日産自動車とスバルで新車の無資格検査問題が発覚したほか、神戸製鋼所はアルミ・銅製品の性能データを改ざんしていたことが分かった。東レと三菱マテリアルの両子会社は、製品の検査データを偽っていたという。
いずれも日本経済の屋台骨を支えてきた企業であり、「ものづくり」への信頼は大きく揺らいだ。産業界は重く受け止め、再発防止に努めなければならない。
神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が見つかった事件は、ネット社会の闇を浮き彫りにし、社会に大きな衝撃を与えた。
内閣府が先月発表した「治安に関する世論調査」によると、自身や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になる場所を複数回答で尋ねたところ、「インターネット空間」を挙げた人が61・1%に上った。
不特定多数の相手と簡単に知り合えるネット社会が広がる中、犯罪に巻き込まれる恐れを感じている実態が浮かび上がった。
ネット社会とどう向き合っていくか。あらゆる情報を冷静に判断し、リテラシー(読み解く力)を向上させていく取り組みが欠かせない。