安倍晋三首相が宿願とする憲法改正へ、大きく動く1年になりそうだ。
 
 昨年5月、首相は「2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。そこで打ち出したのが、戦争放棄などを定めた9条を維持した上で、自衛隊の存在を明記する案である。
 
 自民党は今月召集の通常国会で、9条を含む改正案を各党に示す方針だ。早ければ会期内に改憲を国会発議し、年内に国民投票を行うというシナリオも浮上している。
 
 だが、改憲の是非や項目に関しては、野党だけでなく与党内でも意見の隔たりがある。何より、国民の理解が深まっていない。
 
 憲法は国の在り方を定める最高法規である。中でも9条は日本の「平和主義」を支える条項だ。改憲自体を目的とするような、拙速な進め方は許されない。
 
 なぜ変える必要があるのか、どこをどう変えるのか。国会は丁寧な議論を重ねなければならない。
 
 在任中の改憲を目指す首相の前に立ちふさがるのが、9月の自民党総裁選である。
 
 首相は昨年の衆院選で圧勝し、「1強体制」をさらに盤石にした。石破茂元幹事長、野田聖子総務相らが「ポスト安倍」をうかがうものの、今のところ首相の連続3選は堅いとみられる。
 
 ただ、党内では過度な官邸主導に異論がくすぶっている。第2次内閣発足から5年を超え、飽きを感じる国民が増えているのも確かだろう。
 
 これまでのように強引な政権運営を続ければ、つまずく可能性は十分にある。改憲論議にも影響するだけに、総裁選から目が離せない。
 
 通常国会では、積み残された重要法案が控えている。「働き方改革」関連法案や、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案などだ。
 
 働き方改革については、繁忙期の残業上限を「月100時間未満」とする政府案や、一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の創設に対して、過労死遺族らから反発の声が上がっている。
 
 「過労死ゼロ」を目指す法律が、かえって被害者を増やすようなことがあっては元も子もない。
 
 忘れてならないのは、学校法人「森友学園」「加計(かけ)学園」を巡る問題である。
 
 首相は昨年、野党の追及を避けるように、臨時国会の冒頭で衆院を解散した。丁寧に説明するとの言葉とは裏腹な姿勢に、国民は厳しい目を向けている。
 
 おごりを招いた責任の一端は野党にある。内紛を繰り返し、連携を欠いていては、いつまでも「多弱」のままだ。
 
 持続可能な社会保障制度の構築や財政健全化の新たな目標づくりなど、国政の課題は山積している。
 
 政治に緊張感をもたらすためにも、野党は軸足を定め、巨大与党にしっかりと対峙(たいじ)してもらいたい。