角界を揺るがせた元横綱日馬富士関の暴行事件を巡る不祥事は、これで一件落着とはいくまい。
日本相撲協会は、臨時評議員会を開き、貴乃花親方(元横綱)の理事解任決議を全会一致で承認し、2階級降格処分が決定した。
昨年の秋巡業中に起きた事件の報告を巡業部長として怠り、弟子の貴ノ岩関や自身に対する協会危機管理委員会の聴取要請に非協力的だったことが問題視された。
理事解任という処分は初めてで、厳罰だ。被害者側の親方なのになぜ、というファンは少なくないだろう。
ただ協力を拒み続け、真相究明が大きく遅れたのは否めない。組織を引っ張る理事という立場を考えれば、この処分は致し方なかろう。
疑問なのは、今なお貴乃花親方がかたくなな姿勢を崩していないことだ。
評議員会の池坊保子議長(元文部科学副大臣)によると、協会から理事解任を伝えられた親方は電話で「分かりました」と答えたという。
しかし、これ以外に語るべきことはないのか。
親方はかつて「平成の大横綱」と呼ばれ、真摯(しんし)な相撲道で優勝22回を誇る人物だ。それだけに、「無言」を貫いているのは極めて残念である。
公の場で、事件のあらましとともに、自らが考える協会の在り方をしっかりと説明してもらいたい。
解任されたとはいえ、親方が、来月に予定されている理事候補選挙に立候補するのは可能だ。だが、火種はくすぶったままである。
被害者側の親方の姿勢が変わらず、処分に至った背景には、権力争いの存在も指摘されている。親方と協会執行部の溝は深まっており、処分で正常化への道が見えたとは言い難い。
今回の事件では、協会の対応の遅れが事態を長期化させた要因だった。
事件に関連して、元日馬富士関の師匠だった伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は理事を辞任し、役員待遇委員に2階級降格となった。
現場の酒席に同席した白鵬関、鶴竜関の両横綱は減給処分を受け、八角理事長(元横綱北勝海)も3月までの報酬を全額返上するとした。
当事者や関係者はもとより、協会は処分を重く受け止めなければならない。このままごたごたが続けば、角界のイメージはさらに悪化し、信頼が地に落ちることを肝に銘じるべきだ。
14日に初日を迎える初場所を見守るファンの目は厳しくなるだろう。協会に求められるのは、公益財団法人としてのガバナンス(組織統治)の強化ばかりではない。暴力の根絶であり、今回のような事件が再び起きない体質に変えていくことだ。
誓ってはすぐに破られる再発防止策ではなく、実効性のある対策を講じていかなければならない。協会には重い責任がある。