トランプ米大統領が就任して1年になった。

 「米国第一」を掲げるトランプ氏は内政、外交、経済など、あらゆる場面で独善的な主張を押し通してきた。

 国際協調に背を向ける姿勢は、世界に重い責任を持つ超大国のリーダーとして、ふさわしくないものだ。

 平和と安定どころか、国内外に不安と混乱を振りまいた1年だったといえよう。

 就任2年目は試練が待ち受ける。米大統領選でのロシア干渉疑惑の捜査が政権中枢に迫り、11月の議会中間選挙は与党共和党の苦戦が予想されている。結果は政権の浮沈に大きく関わろう。

 トランプ氏はいつまで強硬路線を続けるつもりなのか。世界の行方を左右するだけに、その動向を注視する必要がある。

 昨年の就任以来、トランプ氏は波紋を呼ぶ行動を次々と取ってきた。

 内政では、一部イスラム圏からの入国禁止令やメキシコ国境の壁建設などを打ち出した。禁止令は合法性を巡って司法で争われ、国境の壁は野党民主党の反対で実現していない。

 最近では、アフリカ諸国などを「汚らわしい国」と下品な言葉で侮辱したとされ、新たな反発を招いている。

 宗教や人種による差別、偏見を助長し、排外主義を勢いづかせる。社会の統合が求められる中で、分断を深めるとは、一国のトップにあるまじき振る舞いである。

 国際合意を覆したのも、一度や二度ではない。環太平洋連携協定(TPP)は国内雇用を守るため、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」は化石燃料産業を振興するため、離脱を宣言した。

 自国の利益を最優先し、他国を顧みない態度は看過できない。保護主義の台頭や温暖化の進行は、米国にとっても脅威になるのを忘れないでもらいたい。

 懸念されるのは、「力による平和」を目指す傾向をますます強めていることだ。

 昨年末、「国家安全保障戦略」を公表したトランプ氏は中国、ロシアへの対抗姿勢を隠さず「新たな競争の時代にある」と指摘した。来月にも発表する「核体制の見直し」では、核兵器の役割を拡大する方針を盛り込むという。

 信頼関係の構築と「核なき世界」を唱えたオバマ前政権とは、まさに真逆である。軍事力で国際秩序の安定を図る考え方は、極めて危険だ。

 イラン核合意の見直し要求や、エルサレムのイスラエル首都認定など、一方的な政策転換も目立つ。

 敵か味方かで色分けし、相手を徹底的に批判する不寛容さは、多様性を尊重する米国の価値観と相いれない。

 危うい方向に突き進もうとする超大国と、世界は正面から向き合わなければならない。とりわけ日本の役割は重要だ。追随するのではなく、行き過ぎをたしなめてこそ、真の同盟国といえるだろう。