世界的に注目される日本の花形研究に傷が付いたのは、残念である。
京都大が、iPS細胞研究所の特定拠点助教の論文に捏造(ねつぞう)と改ざんがあったと発表した。
記者会見した山中伸弥所長は、不正を見抜けなかったとして謝罪した。再発防止策を徹底し、一日も早い信頼回復に努めてもらいたい。
論文は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って脳の構造体を作ったとの内容で、アルツハイマー病の治療にも役立つ可能性があるとしていた。
内部の指摘で調査した結果、主要な図6点全てに不正があることが分かり、論文を掲載した米科学誌に撤回を求めた。
iPS細胞は、病気やけがで失われた組織を修復する再生医療の切り札とされ、国策として政府から巨費が投じられている。それだけに、携わる関係者らの責任は一段と重い。
生命科学分野では、2014年のSTAP細胞問題など、たびたび研究不正が起きている。
iPS研究所は、実験ノートの提出を求めるといった対策を講じてきたが、内容のチェックは十分でなかったという。より厳格に検証する体制の整備が急がれる。
研究の世界では、成果主義の影響でプレッシャーが強まっているとされる。雇用が不安定な任期付きの研究者も増えている。不正を行った助教の任期は今年3月までだった。
一人一人の意識が重要なのはもちろんだが、構造的な問題にも目を向ける必要があろう。