安全管理はどうなっていたのか。仮想通貨取引所大手コインチェックで、約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正アクセスの標的になり、流出した。
仮想通貨で過去最大の流出を許したコインチェックの責任は重い。金融庁が資金決済法に基づく業務改善命令を出したのは、もっともだ。
コインチェックは、不正アクセスを受けてから、社内で異常を検知するまで時間がかかった。顧客の仮想通貨をインターネットから切り離して保管するといった対策も怠っていた。
脆(ぜい)弱(じゃく)なセキュリティー態勢のまま、テレビなどで派手な宣伝をし、顧客獲得に奔走していたという印象が強い。
問題は、コインチェック側がネムの保有者に返金できるかどうかだ。
預けていた顧客は約26万人とされ、総額は約460億円に上る。コインチェックは返金すると発表したが、それだけで利用者は納得できまい。いつ戻すのか、時期や見通しを示すべきだ。
仮想通貨は、インターネット上で取引される財産的な価値を持つ電子データであり、中央銀行のような公的な管理者がいない点で、円やドルといった法定通貨と異なる。
今回の事態を受け、金融庁は国内の全ての仮想通貨取引所への調査に本格的に乗り出した。顧客資産やシステムの管理体制などを聞き取り、問題がある場合は立ち入り検査に踏み切る。利用者保護の対策を急がなければならない。
金融庁によると、資金決済法に基づく仮想通貨取引所の登録業者は16あり、コインチェックを含め登録審査中のみなし業者も16ある。
コインチェック以外の取引所でも、同様の問題が起きる恐れが拭えない。
取引所を巡っては業容が急拡大する一方で、肝心の安全対策が後手に回っているケースが見られるからだ。システムが不安定なところもあるという。
顧客の通貨が流出した場合など、不測の事態への対応をどうするのか、はっきりしない面も多い。
セキュリティー対策の徹底はもちろん、不正アクセスによる流出防止策の強化が求められる。
今回の問題は、金融庁の規制や監督が不十分だったことを示している。法規制などの議論を進める必要がある。
仮想通貨の規制を強める動きは、世界的に広がっている。3月にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、仮想通貨が議題に上る見通しだという。
値上がりを期待した投機マネーが市場に流入し、激しい値動きを見せる一方で、トラブルが後を絶たない。犯罪などに悪用される不安もつきまとう。
顧客の保護はもとより、市場の安定をどう図っていくのか。世界的なルールを議論することが大切だ。