法制審議会の民法部会が、1980年以来となる相続分野の制度見直しに向けた要綱案をまとめた。
高齢化の進行などにより、相続争いが増加傾向にあることを踏まえ、3年前から議論を重ねてきたものだ。
要綱案では、夫婦のどちらかが亡くなった際、残された配偶者が住み慣れた家を出て行かなくても済むよう、家の所有権とは別に「居住権」を新設するなどしている。
日本人の平均寿命が伸びる中、高齢の配偶者の生活が不安定になるのを防ぐ仕組みづくりは最優先課題だ。相続法制にも、時代に応じた不断の見直しが欠かせない。
政府は法制審からの答申を経て、今国会に民法改正案を提出する方針だ。
超高齢社会を見据え、より柔軟で公平な相続制度にできるのかどうか。国会は、幅広い観点から慎重に審議してもらいたい。
制度見直しの柱である居住権は、残された配偶者が自宅の所有権を持つと、他の遺産分割で得られる預貯金などが少額になり、日々の生活が困窮するのを防ぐための措置である。
相続時の年齢が高くなっている現状を考えると、働いて生活資金が得られない高齢者の住む家や生活費はしっかりと確保する必要がある。
近年は、子どものいる高齢者同士の再婚も増えている。居住権は、血のつながらない配偶者と子どもの争いを防ぐためにも有効だろう。
一方、家の評価額は場所や築年数などによってさまざまだ。そうした中、居住権を長期に設定した場合、家の評価額とあまり変わらない価値に上がる恐れがある。
新たな制度がトラブルを招いては、元も子もない。国はさまざまなケースを想定し、きめ細かな対応策を検討しておくべきである。
要綱案には、本人自らが書く「自筆証書遺言」を、法務局で保管できる制度も盛り込まれた。これにより、遺言の改ざんや紛失といった事態を防ぐのが狙いだ。
相続人以外の親族が故人の介護や看護に携わった場合、相続人に金銭を請求できる仕組みの導入も、時宜にかなった制度だといえる。
いずれにせよ、新たな制度が無用な争いを防ぐとともに、納得のいく相続につながるよう望みたい。
賛否が分かれているのは、婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、生前贈与や遺言で配偶者に与えられた住宅は、遺産分割の計算対象から外すとした制度だ。
これに対し、「法律婚の配偶者だけを優遇するものだ」との指摘がある。
高齢者の再婚では、子どもの反対で事実婚を選ぶ人も少なくない。住居や生活費の確保は、法律婚の配偶者に限った話ではないだろう。
国は、より公平で適正な相続ルールの整備に向け、引き続き検討を進めていかなければならない。