これで納得できる人はいるのだろうか。茂木敏充経済再生担当相の秘書が、選挙区の有権者に線香などを配布した問題である。
 
 茂木氏は、自分の氏名を入れておらず、政党支部の政治活動として配布したと説明している。
 
 公選法違反に当たらないとの主張だが、配布した際の秘書の言動などによっては、違反になる可能性がある。
 
 曖昧なままでは、政治に対する不信がますます募るだろう。茂木氏は説明責任を果たさなければならない。
 
 秘書が配ったのは、線香や衆議院手帳である。茂木氏の関連団体が購入して、同氏が代表を務める自民党栃木県第5選挙区支部に寄付し、支部が配布したという。
 
 公選法は、公職の候補者や後援団体が選挙区内の有権者に寄付することを禁じている。買収行為につながり、政治の公正さが失われかねないためだ。
 
 ただし、政党支部の寄付は、政治家の氏名を表示したり、顔写真を付けるなど氏名を「類推させる方法」を取ったりしなければ、例外として認めている。
 
 総務省は、秘書が議員名に言及して配布すれば、政治家による寄付行為に当たる恐れがあるとの見解を示した。一方で、配布時に議員名入りの名刺を渡すのは「名前を聞かれて出したとか、いろいろなケースがある」と、明確な判断を避けている。
 
 茂木氏の秘書はどうだったのか。野党の追及に、同氏は「その場に居合わせておらず、分からない」「一般的な社会常識に従っている」などと述べるにとどめた。
 
 とはいえ、そもそも名乗ったり類推させたりしなくても、「茂木氏の秘書」と有権者が知っている場合が多かったのではないだろうか。
 
 問われているのは、公選法違反や脱法行為があったのかどうかである。事態を軽視した、あまりに不誠実な答弁と言わざるを得ない。茂木氏には、秘書の対応を確認して明らかにする責任がある。
 
 似たような例は以前にもあった。小野寺五典防衛相が、氏名入りの線香セットを配布して00年に議員辞職したことや、松島みどり氏が、名前を記したうちわを配ったとして14年に法相を辞任したことなどだ。
 
 さらに、玉木雄一郎・希望の党代表の事務所が先週、政党支部から慶弔費を支出し、香典として秘書が葬式に持参していたと発表した。
 
 たびたび取り沙汰されるのは、氏名を「類推させる方法」とは何かなど、公選法の解釈に幅があるからだろう。政党支部の活動なら寄付をしてもいいというのも理解し難い。「抜け道」が利用されるのは予想されたことだ。
 
 議員の信用に関わる問題である。候補者名を明示しない金品の配布や、政党支部の寄付の在り方を見直すなど、国会は公選法の改正に取り組むべきだ。