悪夢のような惨事である。政府と防衛省は重く受け止めなければならない。
 
 陸上自衛隊目達原(めたばる)駐屯地(佐賀県吉野ケ里町)所属の2人乗りAH64D戦闘ヘリコプターが5日夕、同県神埼市の住宅に墜落した。隊員が犠牲となり、家にいた女児1人が軽傷を負った。
 
 亡くなった隊員の冥福を祈るとともに、女児の心身の傷が癒えることを願いたい。
 
 当時、民家には女児だけがおり、他の家族は不在だった。現場は住宅密集地で、近くには小学校や幼稚園があり、さらに大きな被害が出る恐れもあった。
 
 幼稚園の関係者は「園舎に落ちるのでは、と気が気でなかった」と振り返り、近隣の住民は「恐ろしかった」と体を震わせた。
 
 駐屯地から南西約6キロの現場一帯は、自衛隊機が飛び交う航路になっている。基地が近くにある地域の危険性を改めて思い知らされた形だ。
 
 徳島県内にも自衛隊基地があり、米軍機の低空飛行もたびたび行われている。事故はどこでも起こり得る。
 
 墜落したヘリは、整備点検後の試験飛行中だった。
 
 目撃者らの話などから、ヘリはメインローター(主回転翼)が分離し、ほぼ垂直に落下したとみられる。4枚の羽根をつなぐメインローターヘッドという部品を交換しており、部品自体や機体整備に問題があった可能性がある。
 
 防衛省はフライトレコーダー(飛行記録装置)を解析し、事故原因の究明を急ぐとともに、再発防止策を徹底しなければならない。
 
 最近、自衛隊所属の航空機事故は相次いでいる。
 
 昨年5月に北海道で偵察機が落ちて乗員4人が亡くなり、8月には青森県沖で哨戒ヘリが墜落、2人が死亡、1人が行方不明になった。10月にも浜松市沖で救難ヘリが墜落し、3人が死亡、1人が行方不明となったばかりだ。
 
 背景には何があるのか。専門家は、今回の事故機のように、長年使われている機種では、整備担当者の慣れや見落としによるエラーが起きやすいと指摘する。整備の人員が限られ、質の低下が懸念されているともいう。
 
 北朝鮮情勢の悪化などにより、実任務が増え続け、パイロットの訓練が十分できていないとの声も出ている。
 
 いずれも見過ごせない事態である。高額の装備を購入する一方で、組織や人員に無理が生じていないか。個々の事故分析だけではなく、構造的な問題も検証する必要があるだろう。
 
 現場に近い佐賀空港には、陸自が導入する輸送機オスプレイの配備計画があるが、影響は避けられない。
 
 防衛省は事故機と同型のヘリを当面飛行停止とし、運用する全てのヘリを整備点検することを決めた。
 
 自衛隊への信頼は大きく損なわれた。安全最優先の姿勢で事故防止に全力を挙げなければ、回復は望めまい。