トランプ米政権が、新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表した。
米国や同盟国が核兵器以外の攻撃を受けた場合に、核使用を排除しない方針を明記し、核の先制不使用も否定した。爆発力が低く「使える核兵器」とも称される小型核の開発も盛り込んだ。
ロシア、中国の核の近代化や北朝鮮の核・ミサイル開発などの脅威をにらみ、柔軟な核の運用を打ち出している。
米国の核兵器は威力が大きすぎて使いにくいとの見方を払拭(ふっしょく)することで、抑止効果の向上を狙っているようだ。
だが、核軍拡競争をあおるばかりか、核使用のハードルを下げたことで、偶発的な核戦争が起きる危険性が高まるだろう。
「核なき世界」を掲げ、核軍縮を追求したオバマ前政権の核戦略を転換する見直しには、賛成できない。
新たなNPRは「米国は、かつてないほど広範で高度な核の脅威に直面している」と危機感を強調し、「世界は大国間の競争に回帰した」との認識を表明した。
核使用について「死活的利益を守るための極限の状況」に限定した前政権の方針は踏襲したが、「極限の状態には核以外の手段による市民や、インフラ、核施設への戦略的攻撃が含まれる」として条件を実質的に拡大した。
「力による平和」を目指すトランプ政権の安全保障観を色濃く反映した指針だ。
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する核弾頭を改良し、小型核を導入するとも明記した。
海洋発射型の核巡航ミサイルも開発する方針だ。既に退役した米海軍の核搭載型巡航ミサイル「トマホーク」の実質的な後継に当たる。
冷戦終結後、同じ共和党のブッシュ(父)大統領は、水上艦・潜水艦から核トマホークの撤去を決めた。なぜ今、この政策に逆行するのか。
核兵器禁止条約を「非現実的な期待に基づいている」とし、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も支持しない考えを明確にした。
総じて世界の潮流に反し、時計の針を逆戻りさせる見直しだと言わざるを得ない。
トランプ氏は声明で「米国や同盟国に対する攻撃への抑止力を高める」と強調した。
河野太郎外相は「高く評価する」との談話を発表し、米国による抑止力の実効性の確保などに期待を示した。
日本は米国の核の傘に依存しており、北朝鮮の核の脅威などに対抗するには、米国との連携は欠かせない。
一方で、日本は唯一の戦争被爆国として、核廃絶を希求し、核軍拡に歯止めを掛ける責務があるはずだ。
被爆者の心情を顧みないような政府の賛同ぶりには、強い違和感を覚える。
新NPRには同盟国の「負担分担」を求めるという記載もある。米国が日本にどんな要求をしてくるか、慎重に見極めなければならない。
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