文部科学省が、2022年度の新入生から順次実施する高校の学習指導要領案を公表した。
選挙権年齢の引き下げを受け、社会や政治に参加するために必要な資質や能力を育む「公共」、日本と世界の近現代史を関連付けて学ぶ「歴史総合」を新たに設けて必修とするなど、新設や見直しは55科目中27科目に及ぶ。
09年以来の全面改定となる今回の最大の特徴は、討論や発表を通じ、自ら問題を見つけて解決する力を養う「主体的・対話的で深い学び」を全教科で導入することだ。
昨年改定された小中学校の指導要領と共通する内容で、弊害が叫ばれて久しい「知識偏重」からの転換を目指している。その理念は納得できる。方向性としても妥当だろう。ただ、課題は多い。
文科省によると、例えば「公共」の授業では、討論のほか、弁護士や選挙管理委員会、NPOなどの協力を得ての模擬裁判や、インターンシップの事前・事後学習も想定している。具体的な課題や活動を手掛かりにした指導を、というわけだ。
講義中心の一方通行の授業を改め、こうした指導にスムーズに移れるだけのノウハウを持ち合わせた教員は、そう多くはあるまい。
新指導要領に対応した研修も必要となってこようが、長時間労働が深刻な教育現場には「余力がない」との声もある。「脱ゆとり教育」路線を継続し、内容を削減せず新しい試みに臨む以上、教員配置の充実など勤務環境の改善は欠かせまい。
改定作業は大学入試改革と同時に進められた。文科省は既にセンター試験改革に乗り出しており、20年度からの「大学入学共通テスト」では国語と数学に記述式問題を導入する。「思考力・判断力・表現力を中心に評価する」という。
しかし、センター試験が変わったところで、各大学が個別入試で「知識偏重」を続ければ、高校側も歩調を合わさざるを得ない。改革の成否は、大学側の動向が鍵を握っているといえそうだ。
今回の改定案には、周辺国との関係に配慮し明示してこなかった竹島(島根県)と尖閣諸島(沖縄県)が、初めて「固有の領土」と明記された。安倍政権の意向を強く反映している。
指導要領は、児童生徒に教えなければならない最低限の学習内容の基準だ。「公共」や「歴史総合」では、論争のあるテーマも扱う。
記載量が1・5倍に増えマニュアル化したともいわれる指導要領をなぞり、特定の考え方を押し付けるようでは、到底、「主体的・対話的で深い学び」など期待できない。
生徒の力をどのように伸ばしていくか、当面は手探りとなろう。生徒が能動的に関わる授業は、準備に時間がかかるといわれる。現場は大変だろうが、新しい教育を創造する機会にしたい。