厚生労働省が、裁量労働制に関する労働時間調査について、不適切だったと認め謝罪した。
 
 政府は、裁量制の対象拡大を働き方改革関連法案の柱の一つとしているが、その根拠が大きく揺らいだといえる。
 
 実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ定めた時間を働いたとみなし、賃金を支給する裁量制には、さまざまな問題が指摘されている。
 
 政府は今国会への法案提出を急がず、本当に働く人のためになるのかどうか、改めて慎重に検討すべきである。
 
 不適切とされたのは、厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」だ。
 
 これを基に、安倍晋三首相が先月末の国会審議で、「裁量労働制の労働時間が一般労働者より短いというデータもある」と答弁。野党から疑問の声が相次ぎ、答弁を撤回、陳謝した。
 
 調査手法を精査した厚労省によると、一般労働者には「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」を尋ねた一方、裁量制では単なる1日の労働時間を質問したという。
 
 正確性と公正性が何より求められる公的な調査で、条件の違うデータを比較するなどあってはならないことだ。
 
 残業時間が「1日45時間」といった誤記とみられるケースが少なくとも3件あるなど、集計もずさんだった。
 
 調査結果は、3年前から、裁量制の時短効果を示す資料として国会答弁などに使われていた。
 
 裁量制による労働時間を巡っては、労働政策研究・研修機構の調査や民間調査会社のデータで、一般の人より長時間になりやすいという結果が示されている。
 
 にもかかわらず、厚労省は野党から指摘されるまで、調査手法の確認を怠っていた。引用した首相の姿勢も問われよう。
 
 政府は否定しているが、意図的に作成、採用したのではないかと疑われても仕方がない。厚労省は作成経緯を詳細に調べ、しっかりと説明しなければならない。
 
 見過ごせないのは、加藤勝信厚労相が今月7日に不備を把握していたと明らかにしたことだ。法案提出に前のめりになるあまり、都合のいいデータを使い続けたとすれば許されない。
 
 裁量制に対しては、いくら働いても原則として残業代が払われないため、長時間労働につながり「働かせ放題になる」との批判がある。
 
 裁量制での労災認定は11~16年度の6年間で61件あり、うち過労死や過労自殺(未遂含む)は13人に上っている。
 
 働き方改革の目的の一つは、長時間労働を防ぎ、過労死・自殺を撲滅することだったはずだ。
 
 改革に逆行しないというのなら、政府は裁量制による労働実態をきちんと調査し、正確なデータを示さなければならない。それができなければ、関連法案から裁量制の拡大を切り離すべきだ。