原発事故はどれほど人を苦しめるのか。
 
 東京電力福島第1原発事故による強制避難を前に自殺した男性の遺族が起こした訴訟で、福島地裁が東電に1520万円の賠償を命じた。
 
 東電と国は、判決の意味を重く受け止めなければならない。
 
 福島県飯舘村に住んでいた男性は、事故当時102歳だった。1カ月後の2011年4月11日、村が計画的避難区域に指定されると知り、「やっぱりここにいたいべ」「長生きしすぎたな」とつぶやいたという。
 
 自室で首をつっているのが見つかったのは、その翌朝だ。
 判決は「村に帰還できず最期を迎える可能性が高く、耐え難い苦痛を与えた」と、避難を余儀なくされたこととの因果関係を認めた。
 
 男性は農家の長男として村に生まれ、尋常小学校を卒業した後、すぐに農業に従事。土地を開墾し、牛馬を飼って田畑を耕し、葉タバコや養蚕も手掛けていた。
 
 古里を愛する気持ちがいかに強かったか、想像に難くない。判決は、男性の思いに寄り添ったものといえよう。
 
 厚生労働省によると、東日本大震災や原発事故に関連する自殺者は、17年までに福島県で99人と、岩手県の48人、宮城県の53人のほぼ2倍に上る。
 
 事故から7年近くがたってもなお、痛手から立ち直れない人たちがいることを忘れてはならない。
 
 国や自治体は、生活支援だけではなく、心のケアを息長く続けていく必要がある。