沖縄には旧暦12月8日、月桃の葉で包んだ「鬼餅」を縁起物として食べる習慣がある。評論家古波蔵保好さんが、子どものころ聞いた由来を「料理沖縄物語」(朝日文庫)に書き残している

 餅をよこせ、と鬼が現れた。村人が、あらかじめ鉄でこしらえてあった偽物を差し出すと、奪い取って「ぱくっ」。さしもの鬼も鉄には歯が立たない。こんな餅を食べる人間にはかなわん、と逃げ去ったとさ

 よくよく思えば、子どもだましだ。普通なら、何を食わすかと激怒されるのが落ちではないか。首尾よくいったのは幸運だった

 上京した翁長雄志沖縄県知事を袖にして、政府は新年度の振興予算を前年度比1割減とする方針だ。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する知事へのけん制球らしい。昔話の村人もあきれる大人げない対応である

 振興予算は、普天間と切り離して考えると説明してきた。知事、衆院の両選挙が終わり、関係改善を図るべき時期に「鉄の餅」で歓迎とは、おごりが透けて見える。県民の怒りの火に油を注ぐこともないだろうに

 古波蔵さんは、鬼餅の由来をもう一つ記している。鬼になった兄を、あっと驚く手段で妹が退治する筋書きだ。もちろん現実は民話と違う。奇策を用いても沖縄の心は変わるまい。そもそも鬼はどちらか。話はそこから始めないといけない。