届け先不明の手紙を預かってくれる郵便局が、香川県粟島にある。戻らぬあの人に、未来の自分へ…思いが流れ着くまで。「漂流郵便局」という

 「君にはがきを書くことができるようになりました。生きていてくれたら30歳。どんな人になっていることでしょう。あいたい、あいたい、あいたい。もう一度、君を両のうでで抱きしめたい」。20年ほど前に亡くした息子へ便りを出し続ける人がいる

 「あなたが一番好き」と言えなかった40年前の後悔をつづる人。認知症の義母を介護する”良き嫁”が打ち明ける、いじめ抜かれた過去の恨み。手紙は毎月第2、第4土曜日、旧粟島郵便局で公開されている

 瀬戸内国際芸術祭の作品として一昨年秋、開局した。1カ月の予定だったが、その後も手紙は舞い込んだ。「外国からも含め、もう3千通を超しました。悩みばかりではなく、目標を記す人も。体力の許す限り続けたい」。手紙を管理する局長の中田勝久さんは80歳。島の郵便局員を45年務めた

 書くことで救われる人がいる。その苦悩も、秘めた夢も、しっかり引き受けてくれる人がいてこそだ。来月、本も出版される。表題は「漂流郵便局」(小学館)

 手紙の宛先は〒769ー1108、香川県三豊市詫間町粟島1317ー72、漂流郵便局留め。宛名は当然、届けたい誰か、である。