一度手放せば、取り戻せない大切なものがある。それは日本人が戦後70年間守り続けてきた平和国家としての信用だ。「平和は理想である。平和は言いようもなく複雑なもの、不安定なもの、脅かされているものである」(ドイツの作家ヘルマン・ヘッセ)。文豪の言葉通り、今も世界中で紛争が絶えない
過激派「イスラム国」が日本人2人を人質に取り、1人の殺害写真をインターネット上で公開し、もう1人の解放条件としてイラク人女性死刑囚の釈放を求める。そんな状況で戦後70年の節目の通常国会論戦が始まった
衆院代表質問で民主党の前原誠司氏がテロ対策などをただしたのに対し、安倍晋三首相は「卑劣なテロは言語道断の暴挙」と非難し、人道支援を続ける決意を示した。テロや内戦で困窮している人たちを日本が人道支援するのは当然だ
気掛かりなのは、自衛隊の任務拡大と、集団的自衛権の行使容認を受けた安全保障法案をめぐる審議である。ふと頭をよぎるのは、自衛隊がイスラム世界の紛争に巻き込まれて銃弾を撃つ、あってはならない光景。日本がイスラム教徒から敵視され、日常的にテロの標的になる。そんな事態に日本人は耐えられまい
平和憲法の下で武力を排し、人道的貢献に傾注する。戦後の日本が選んだ道の尊さを、国会の審議で再評価すべき時だ。