鴨長明といえば「方丈記」。<ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず>。平安から鎌倉へ、時代の変わり目に生きた歌人が世の無常を記したこの随筆。歴史史料としても一級品だ
都をのみ込む大火、竜巻、飢饉、疫病と簡にして要を得た筆運び。当代随一のジャーナリストは、元暦2(1185)年の大地震も書き残している。山は崩れ、海は陸を浸し、土は裂けて水が噴き出した。大地が動き、家が壊れる音は、まるで雷のよう
羽がないので空は飛べない。竜ではないので雲の上に逃れることもできない。長明は自らの体験から、最も恐れるべきは地震だ、と言い切る
さては南海トラフか、と肝を冷やした人も多かっただろう。きのう牟岐町で震度5強を観測した地震である。けが人がいなかったのは何よりだった。まだ震度5弱程度の余震の恐れがある。気を抜いてはいけない
同時に早速、南海に備えて検証したい。子どもやお年寄り、人を守る方策にほころびはなかったか。少しでも懸念があれば拭っておきたい
月日がたち、恐ろしさを忘れた人々への嘆きで、長明は地震の項を締めくくる。徳島県民にその心配はあるまいが、迎え撃たねばならないのは<そのさま世の常ならぬ>大地震である。鳥でも竜でもない人間は知恵を絞るほか、生き延びる方策はない。