またか、という向きもあろうが、ご容赦いただきたい。統一ドイツの初代大統領・故ワイツゼッカー氏のことである。きのうの本紙総合・国際面に公式追悼行事の模様が短く掲載されている

 政治家とは言葉によって生きる種族だとあらためて知らしめた人だ。ドイツが、ナチスによるユダヤ人大量虐殺のイメージを拭えたのも、この人の言葉によるところが大きい

 <過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります>(永井清彦訳)。1985年、戦後40年に合わせて行った「荒れ野の40年」と題する議会演説の有名な一節である

 旧約聖書を引用している。イスラエルの民は約束の地に入るまでの40年、荒れ野をさまよい苦しんだ。その40年を<心に刻んでおくことがなくなったとき、太平は終わりを告げた>。歴史を忘れることなく、責任を受け止めなければならない。真実を直視しよう。そう国民に呼び掛けた

 リーダーに返り咲いて3度目の施政方針演説。安倍晋三首相は「戦後以来の大改革」を達成すると意気込んだ。経済に社会保障、安保に原発と課題は山積している。国民への説明が鍵となろう
 
 戦後70年。首相の言葉の力が試される年だ。過去を心に刻み、未来をしっかり見据えられるように。歴史に残る演説に必要なのは、勇ましさより格調の高さといえようか。