「岩ばかりの絵はあまりかかないので、はじめはちょっとまごついたが、めずらしいのでかいてみた」。にょきにょきとそそり立つ土の柱をフェルトペンのしっかりとした線でとらえ、手前の松の木を黒々と力強く塗っている
1956年に来県した放浪の画家・故山下清画伯は、サルマタ一つ、上半身裸で阿波市阿波町の土柱と向き合った。作品と感想は当時の徳島新聞に掲載された
米国のロッキー山脈、イタリアのチロル地方の土柱と並ぶ世界三大奇勝の一つ。だが、「ここの風景は兵隊の位にしたら将校かな。おなじ将校でも、まえに見た鳴門にくらべるとちょっと下だな。鳴門は『佐官』で、土柱は『尉官』というところだろうな」と山下画伯。土柱にはいささか失礼ながら、”言い得て妙“の趣がある
その土柱がリニューアルされた。土柱の崩落を防ぐために、阿波市教委が樹木を伐採した。土柱からは「緑」がほぼ一掃され、土色に戻った。「自然のまま残して」との声もあったようだが、伐採後は奇観の雰囲気を取り戻したように見える
「これ、人間がつくったのとは違うんだろうな。わざわざつくるのはバカらしいもんな」。うーん。それはさておき、山下画伯、天の造形美を守るために、人が手を加えても許してくれるでしょ?阿波観光の活性化にもつながりそうだしね。