マネーゲームが市場を動かし、経済最優先がまかり通る昨今。お金よりも大事なことがある。そんな直球のメッセージが多くの共感を呼ぶのだろう

 米大リーグの高額年俸を蹴り、古巣の広島に戻った黒田博樹投手の決断である。おとといの入団会見では、迷いがあったとしながら「ファンの声を聞き、これで良かったかなという気持ちになった」と語った

 昨季まで5年連続2桁勝利を挙げ、今季も年俸20億円は堅いとされた。広島の年俸は5分の1。それでも復帰へと向かわせたのはファンの熱い思いだったに違いない

 フリーエージェント権を得て、移籍が取り沙汰された2006年。残留を願うファンが当時の広島市民球場に掲げた大横断幕は今も語り草だ

 「我々は共に闘って来た 今までもこれからも…未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる」。それに応えて1年残留した後、海を渡った。育ててくれた球団に残した言葉は「感謝の気持ちでいっぱい。また日本に戻ってプレーすることがあるならば、このチームしかない」だった

 約束を果たした「おとこ気」をたたえる声があるが、おとこ気とは弱い者が苦しんでいるのを見逃せないことだ。2年連続3位の広島はもう弱くはない。目指すは24年ぶりの優勝。帰ってきた男の生きざまから、目が離せない。