振り返っても、ぽっかり穴が開いているようで、思い出せない。あの先生、怖かったよな、とか、あの試合、何であそこでミスしたのかな、といった時々の映像は頭にこびりついているものの、あのとき何を感じ、考えていたかとなると「?」
 
 大人に向かう道をそろり歩き出す10代。自分も経験したはずなのだが、携帯電話も無料通信アプリ「LINE(ライン)」もなかった遠い昔の記憶はもはやさび付き、多感な時期の、特有の心模様が十分に受け止められなくなっている。だから「心の闇」といった言い古された用語を、安易に使いたくなるのかもしれない
 
 あの夜を覆っていたベールが、徐々にはがれてきた。川崎市の中学1年生は殴られ、首を鋭利な刃物で切られて、裸で放置された。まだ13歳。なぜ、こんな陰惨な事件に巻き込まれたのか
 
 血の付いたカッターナイフの刃、手足を縛ったとみられる結束バンド、焼け焦げた靴底や衣服。遺留品が語るのは明確な殺意と計画性だ。まるでどこかの過激派組織の所業である。いくら想像の翼を広げても「なぜ」が残る
 
 名古屋、和歌山、今回と、特異な事件が続いている。ひっくるめて論じるのは少々乱暴だが、事件は時代の空気を宿しているのが常。こんなにも人の命をないがしろにできるのは、きっと今どきの、確かな理由がある。