肥後守といえば、60代から上の人にはおなじみだろう。かつての小学生の筆箱に入っていた折り畳み式の小刀である

 肥後守を製造販売する兵庫県三木市の永尾駒製作所によると、九州から持ち帰った小刀を改良して売り出したのが、明治時代の中ごろ。名の由来は諸説あり、主な取引先が肥後・熊本にあったからというのが有力で、武将や名刀にあやかったとの説も

 その肥後守も含まれる。カッターナイフや小刀を校内に持ち込ませないよう、阿南市教委が市内小中学校に通達を出した。必要な場合は学校で用意して、終われば回収する。川崎市の中1殺害事件を受けての緊急措置という

 過剰反応ではないか、だから鉛筆も削れない子になる、との声も出てこよう。しかし、あれほど残虐な事件だ。考えられる限りリスクを低減させたい、との市教委の意向はよく分かる

 子どもに甘い今だからこその対策でもない。小学生の手から肥後守を奪ったのは、半世紀以上も前に始まった青少年に刃物を持たせない運動である。近ごろの若者だけでなく、当時から刃物を使った事件が問題になっていた

 手作りの肥後守は一振りの刀のような美しさ。道具にも、凶器にもなろう。罪は使い手にあるのに、と思いつつ。少年事件はゼロになるまい。それでもゼロにする努力を放棄するわけにいかない。