築地塀の土の色は、さて何色と呼べばいいのだろう。黄土色よりは淡い。かといって鶏卵の殻のような淡黄、鳥の子色ほどは薄くなく、もう少々黄みが強い

 その辺りの色を、太いはけで横につつーと走らせる。松の緑を配し、背後のかやぶき屋根は檜皮色というところか。近づいてみると、塀の瓦に梅の枝。ポッポッ、ポッポッと、白い花が春のリズムを刻んでいる

 ウグイスでも来鳴けば、ちょっと出来過ぎで、かえって興がそがれるか。つるぎ町貞光の旧永井家庄屋屋敷。母屋に寝床、蔵、県内屈指の柿の古木。こぢんまり、周囲の山を借景にして、趣味がいい

 上がらせてもらった。足の裏に畳の感触がじわじわと染みる。玄関脇の次の間、仏間に床の間、障子にふすま、縁側から眺める庭。妙にしっくりくるこの感じ。時を超え、江戸時代に生きた人と通じ合えた気にも

 北陸新幹線が開業した。終点の金沢は加賀百万石、兼六園をはじめ観光資源の宝庫。大勢の人が見て食べて、時速260キロに耐え得る土地だ。正直言って、そのにぎわいがうらやましい

 仮に新幹線が通っても、旧永井家に観光客が押し寄せることはあるまい。だが、こうも思う。県内には人の速度でこそ味の出る場所が少なくはない。いっそスピードに背を向け、時速4キロにとことんこだわってみるのも悪くない。