思考の底に戦中の日本があった。シンガポールが陥落したのは1942年。リー・クアンユー元首相、18歳のときだ。日本軍占領期は「人間や社会の生々しい実態」を垣間見た「最も大切な時期」だったという。恐怖心による統制の威力も体験した

 <侵攻した日本人から、私は人生で唯一最大の政治教育を受けた。3年半で、権力の意味、権力や政治や統治の関係を知り、生活のために、人々が権力機構にからめとられることも学んだ>「リー・クアンユー、世界を語る」(サンマーク出版)

 65年、マレーシア連邦から追い出される形で独立した。国土面積は淡路島程度。資源もない。経済至上の国づくり、「開発独裁」とされる強権的な手法を選んだのにも事情がある

 2013年で約5万5千米ドル。国民1人当たりの国内総生産では日本を大きく上回る。シンガポールを世界屈指の富裕国に成長させた功績は、誰もが認めよう。民主主義を軽んじる独自の「アジア的価値観」は別にして

 舌鋒(ぜっぽう)鋭い「アジアのご意見番」は、日本の将来を「悲観的だ」と言い残した。少子高齢化が進んでいるのに、移民受け入れに消極的だからだ

 黄泉(よみ)の国から見ていてもらいたい。戦後、民主主義や人権に価値を置いてきた国が、この難しい課題をどう解決するか。新たな道を歩む祖国の未来とともに。