国語辞典の編さんに奮闘する出版社編集部を描いた三浦しをんさんの人気小説「舟を編む」が文庫化されたので、再び手に取った。作者の視線の温かさが、何とも心地よい作品だ

 主人公が用紙の見本をチェックして「ぬめり感がない」と叫ぶ場面がある。スムーズにページがめくれるように、紙はしっとりした質感でなければいけないのだという。辞書づくりの情熱が余すところなく描かれている

 本好きにとっては、文字や写真で情報を伝える機能だけではなく、紙の手触りや装丁、インキの匂いまで全て欠かすことのできないものだ

 書き込んだり付箋を貼ったりして、ぼろぼろになるまで読み込んだ本を持っている人も少なくないのではないか。愛着を覚えるという点においては、電子書籍は本の足元にも及ばない

 老舗書店・小山助学館本店が来月、徳島市万代町へ移転して、徳島駅前から姿を消す。郷土関連の品ぞろえが充実していただけに、万人に便利がいい駅前からなくなるのは残念だ。ネット通販や郊外型店の台頭で苦境に立つ街角の書店の象徴ともいえる

 「舟を編む」の中に「辞書は言葉の海を渡る舟」とある。実にうまい表現だ。これに倣えば「本は知識の海を渡る舟」であり、書店は「文化の港」だろう。人生を豊かにする知的冒険のために、街角の港を大切にしたい。