代々の法を固く守る「祖法墨守」は徳川時代の原則。父と同じ道を歩く。変わらないことが唯一の価値とすれば、体制が動く道理はない。200年以上、天下太平の世が続いたのは、この先例主義も大いに寄与していよう
翻って現代は、速度の時代。生き物とも形容される企業にとっては、変わらずにいる方が難しい。生き残るため。大塚家具のお家騒動には、そんな事情もあるだろう
創業以来の高級路線を主張する父、「気軽に立ち寄ってもらう」中価格帯路線を掲げる長女。そもそもは目指す経営手法の違いに端を発する。それが次第に激化し、社員や取引先も巻き込んで、ついには「悪い子どもをつくった」との発言まで飛び出す始末
きのうの総会で株主は長女に軍配を上げた。だが怒りは双方に向いている。「娘と父親がけんかしているところで家具を買うか。会社は大切なことを忘れたのではないか」
「墨守」は中国・戦国時代、楚軍の攻撃からよく城を守った思想家・墨子の故事に由来する。ただし、この城も内憂あらば簡単に陥落したかもしれない。父と娘。やはり和解するのが最善では
上場企業の醜態、「公開親子げんか」のしこりは当面消えるまい。同族経営は日本企業の9割を超す。社員の右往左往を想像し、宮仕えの悲哀を共に嘆く勤め人も少なくはなかろう。