今どきありがちな発言が、なぜこれほど話題になるのか。そちらの方が不思議だ。信州大の山沢清人学長が入学式でこう述べたという。「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」
 
 スマートフォンの使用を禁じるかのような表現に、インターネットにはさまざまな意見が書き込まれている。いわく「時代錯誤」。いわく「よく言った」。どちらも極端な反応だろうが、理解に苦しむ
 
 言葉は文字通りの意味だけでなく、もう少し大きく柔らかな意味の塊に包まれている。だから全文を知らなくても容易に想像がつく。学長の発言も、スマホや大学を「やめる」というところに真意があるはずがない
 
 実際、大学のホームページに掲載されているあいさつを読めば分かる。スマホに過度に依存してはいけない。本を読み、友達と話をしよう。自分で考えることを習慣づけよう。独創性豊かな学生になろう-。教養あふれる落ち着いた話の運びで、とっぴなところは皆無だ
 
 ここで日本人の国語力が低下してきた、と嘆いてみせるつもりだったが、それならまだましでは、と考え直した。他人の思いを推察する力、コミュニケーション能力が落ちてきてはいないか
 
 家でも会社でもスマホが手放せない身とあれば、説得力がなあ、とは思いつつ。さて今夜は街へ出て、友人の顔でも拝もうか。