十年一昔という。日数に直せば3652日。その気さえあれば、生まれ変わるのに十分な時間だろう。効率を重視するあまり、しばしば優先順位を間違える企業社会に、安全意識は浸透したか。尼崎JR脱線事故から、きょうで10年になる
その朝、運転士は直前の停車駅でオーバーランをした。それで生じた遅れを取り戻そうと、制限時速70キロの急カーブに120キロ近いスピードで突っ込んだ。車両は軌道を外れ、マンションに激突した
乗客の多くは通勤・通学の人たちだった。一家の大黒柱がいた。明日を夢見る学生がいた。乗客106人と運転士が死亡、562人が重軽傷を負った。今も後遺症に苦しむ人がいる
JR西日本は事故後、矢継ぎ早に対策を打ち出した。過密ダイヤを改め、自動列車停止装置の設置区間を大幅に拡大した。社員教育の在り方も見直した。それでも事故やトラブルを抑えきれない。最後は人。危険の芽は摘むほどに見つかる
JR各社は、事故をわがことと受け止めたか。どうも心もとないようだ。車両火災や検査数値の改ざん、あわや大惨事だった山手線の支柱倒壊…。公共交通機関の責務を忘れたような事故が続く
10年。遺族や負傷者の6割がいまだ「区切りにならない」と。その思い、各社はどう応えていくか。事故は過去のこと? とんでもない。