太平洋戦争で零戦などを操った撃墜王の坂井三郎元海軍中尉には、硫黄島上空で多数の敵機に追われて、振り切った経験がある。その後、内地に引き揚げた坂井さんは長い戦後を生き延びた
 
 坂井さんは回想記「大空のサムライ」で僚友の戦死について、こう述べている。「飛行機乗りの運命は、誰の胸の底にも、わかりすぎるほどわかっている」。分かっていながら、僚機が一機、また一機と大空に散っていくさまはあまりにも悲しい。硫黄島などで戦死した日本兵の無念は察して余りある。愛する家族に一目でも会いたかったに違いない
 
 戦後の今も日本を武力攻撃から守るのは当然だ。だが、平和憲法の下で、日本が海外で米軍の後方支援を行う。そんな未来は、祖国日本に命をささげた兵士には想像外だろう
 
 安倍晋三首相が米連邦議会の上下両院合同会議で演説し「先の大戦に対する痛切な反省」を表明。硫黄島の戦いに触れ、「熾烈(しれつ)に戦い合った敵は、心の紐帯(ちゅうたい)が結ぶ友になった」と述べた。戦後日本の繁栄は米国と共にあった。日米の絆を強めるのも大事だ
 
 だが、安全保障関連法案を改正して、自衛隊を随時海外に派遣すれば、他国の紛争に巻き込まれる事態が生じないか。安倍首相はそんな事態を「荒唐無稽」と一蹴したが、兵士はいつ、敵と遭遇するか分からない。昔も今も。