江戸時代の名奉行大岡忠相(ただすけ)の「大岡裁き」にこんな話がある。1人の子どもに2人の女性が母親だと名乗り出る。裁きの場で2人は子どもの手を引っ張り合うが、「痛い」という叫びを聞いて、手を離した方が本当の母だと認められた。子どもの痛みが分かったからだ

 奪い合うどころか、子どもを手元に置きながら虐待する親が絶えない。東京で3歳の男児を虐待して死亡させ、遺体を捨てたとして監禁致死と死体遺棄の疑いで両親が逮捕された。ウサギ用ケージに監禁し、顔にタオルを巻くなどして男児を窒息死させた疑いが持たれている。徳島県内でも昨年、両親が首輪とひもで子どもをつなぐ事件が起きた

 「子は三界の首かせ」とは、子どもは、衆生が欲界、色界、無色界の三界をさまようのを妨げる首輪だという意味だ

 この世で親は子どもに心をとらわれて自由を束縛され、あの世に行く時も、この世に残す子どもが気掛かりで死ぬに死ねない。そんな首輪なら親は科せられても本望だ

 今日はこどもの日。あっという間に成長し、巣立つ子どもと野や山で触れ合う時間は尊い。遊び疲れて話すうちに、ふと、日ごろは気づかない心の叫びを聞くこともあろう。それは、わが子のものとは限らない。虐待やいじめに苦しむ子どもの叫び声がか弱く小さくても、私たちが耳になりたい。