佐野源左衛門尉常世(さのげんざえもんのじょうつねよ)は落ちぶれた武士。大雪の夜、旅の僧を泊めたはいいが、薪(まき)がない。やむなく秘蔵のウメ、サクラ、マツの鉢植えを火にくべてもてなした。そして言うには「こんな暮らしだが、鎌倉幕府に一大事あらば、一番にはせ参じるつもりだ」
 
 旅の僧は時の最高権力者、執権・北条時頼の仮の姿。後日、非常招集をかけた際、言葉通りに駆け付けた常世の誠実さを認め、所領を与えて報いた。謡曲「鉢木(はちのき)」、「いざ鎌倉」の語源である
 
 木に手を加え、年月をかけて鉢の中に自然の趣を再現する「盆栽」。日本古来の文化と思われがちだが、鉢植えなどが盆栽へと脱皮するのは意外に遅く、明治時代に入ってから
 
 それまでは中国の影響を強く受けた趣味だったらしい。国粋主義の高まりとともに茶や生け花の要素も取り入れて<日本の「伝統文化」としての形式を、後追いでととのえていった>「盆栽の誕生」(大修館書店)。無論、古くからの下地もあっての発展だろう
 
 イタリア・ミラノ万博で、三好市出身の盆栽師・平尾成志さんが手入れの実演をした。日本発祥の盆栽は海外でも人気が高いそうだ
 
 34歳、普及活動を始めて7年目。子どものころから見てきた風景が盆栽に染み込んでいるという。となれば「BONSAI」にも。つながる徳島と世界。考えるだけで楽しい。