ある商家の奥座敷。床の間を背に一献傾ける侍の前に、主人がまんじゅうの箱をつつっと差し出す。侍がふたを開けると、山吹色の小判がぎっしり。「うまそうな色じゃのう」「魚心あれば水心ありでございますよ、お代官様」「お主も悪よのう、越後屋」。時代劇でおなじみのシーンは、残念ながら今も健在のようだ
 
 米司法省が、組織的な違法行為と贈収賄の罪で国際サッカー連盟(FIFA)の副会長らを起訴した。185億円以上もの金が渡り、見返りに国際大会でのスポンサー権などを与えたというから、地位利用も甚だしい
 
 「魚心-」に相当する外国のことわざに「私を掻いてくれたら、私も君を掻いてあげよう」がある。「魚心-」ほど洗練された印象は受けないが、ギブ・アンド・テークの心は洋の東西を問わず一つのようだ。小判を金貨に変えたシーンが欧米の時代劇にあっても不思議ではない
 
 「水清ければ魚棲まず」は過度の清廉さの戒めだが、絶大な権限を握るFIFAには「水清ければ月宿る」の心構えがほしい。心が正しければ神や仏の加護がある。水が澄んでいると、月はきれいに映るものだ
 
 アルゼンチンの元スター選手、マラドーナ氏は「FIFAはサッカーが嫌いで、透明性も嫌いなんだ」と現体制を批判した。FIFAの組織そのものに病巣はないのか。