「ラクダは水を飲むとき水面を乱す」という。己の醜い姿が見たくないのだそうだ。そんなことわざ通りのラクダはいるはずもないが、仮にいたとすればあまりに切ない。自分の長所に気付くことも未来永劫(えいごう)ないのだから
 
 逆に、水鏡をのぞき込み、都合のいい所しか見ない。ヒトと称する動物は、暮らす国にかかわらず、しばしばこうした振る舞いをする。こちらも己の醜い姿が見たくないのである。事が起き、騒ぎになって初めて自分の短所に気付く
 
 ラクダが感染源とされる中東呼吸器症候群(MERS)が、韓国で猛威を振るっている。経営に影響するからと拒んでいた政府が、感染者の出た医療機関名を公表したのは最初の感染確認から19日目。その間、市民は知らずに病院を利用した。情報公開をはじめ、初期対応に問題があったと言うほかない
 
 感染者が院内を歩き回り、病院が広範囲に汚染された。感染した医師や患者搬送係の職員が勤務を続けていたとも。感染防止策はあまりにずさん。当局の対応が手ぬるいのは、渦中の病院が属している財閥への配慮かと不信感が広がっている。当然だろう
 
 自宅隔離対象の邦人が帰国するなど、日本でもMERSの足音が聞こえ始めた。よもや隣国の愚は繰り返すまいが、もう一度、水鏡に映ったわが姿、ほころびはないか見ておきたい。