胸がきゅんとするような思い出。他の人は知らないが、筆者の場合は10代、決まって夏である。記憶のページに記された文字は、長い時間に薄れつつあるものの、あの時の感触は、間違いなく体のどこかにしまわれている
 
 音楽や映像が、ふいに扉の鍵を開けることがある。そんな映画の代表的な一本が、米小説家スティーブン・キングさん原作の「スタンド・バイ・ミー」だろう。公開から30年になる今も、多くの人の心をつかんで離さない
 
 <夜の闇があたりを包み/月明かりしか見えなくても/僕は怖くない/怖くはないさ/君がそばにいてくれるなら>。主題歌は、先日亡くなったソウル歌手ベン・E・キングさんが、1961年に発表した同名のヒット曲
 
 元は妻に宛てたラブソングという。映画では友への歌と解釈している。生と死、そして人生と向き合い始めた12歳の少年たちの物語に、キングさんも感動し涙し、繰り返し繰り返し見たそうだ。最愛の妻と出会った小学生のころの自分がよみがえったのかもしれない
 
 夏休み。子どもらが見違えるほど成長する季節。映画の主人公は振り返る。<たった2日の旅だったが、町が小さく違って見えた>
 
 徳島は台風一過だが、大きな浸水被害が出た。お見舞いを申し上げたい。家の後片付けも、きっと少年たちの成長の糧になろう。