「なみだは人間の作るいちばん小さな海です」。作家の寺山修司さんはかつてこう書いた。では、これまでに人が流した涙を集めれば、どれほどの海になるだろう

 大きさは見当がつかなくても、成分は何となく分かる。少なくとも、歴史をさかのぼればさかのぼるほど、悲しみの涙の量は、歓喜の涙をはるかに上回るのではないか

 例えば大航海時代。アフリカに至った航海者がこぼした汗と涙、アフリカから連行された奴隷の涙。どちらが多かったかは明らかだ

 1492年、クリストファー・コロンブスの到達を機に、この島も飽くなき収奪と虐殺にさらされ、血と涙に覆われた。先住民たちの未来を奪った欧州人のキューバでの残虐行為は、スペイン人宣教師のラス・カサスが生々しい筆で記録している

 植民地の時代が長く続いた後、独立。独裁政権と革命。核戦争勃発の危機。日本では「海の日」の今日は、キューバの歴史に残る日となる。1961年の断交から54年ぶりに米国との国交を回復し、互いに大使館を開く

 冷戦の遺物でもある両国の反目は転機を迎えたが、経済制裁や人権問題など積み残された難題は多い。しょっぱい涙の海を、国民の笑顔と喜びの涙で満たすこと。現代の政治家が期待されている役割を見失わなければ、いずれ乗り越えられる課題といえるのだろう。